平成22年度は、漁民移動、漁業移住の事例調査のため、(1)漁民集団の出身地における現地調査、(2)漁民集団の出漁地における現地調査、(3)雑誌、新聞記事、漁業史関係文書、古写真等文献資料の調査を実施した。 (1)については、以西底曳網漁業による事例として、徳島県美波町西由岐、志和岐における聞き取り調査を実施し、その成果を「以西底曳網漁業による戦後の出稼ぎ-旧由岐町での聞き書き-」としてまとめた。ただ、現在聞き取りが可能な時期は、徳島県からの以西底曳網漁業による漁民移動の末期にあたり、衰退、移行期の事例ともいえ、明治、大正、昭和初期の状況については不十分なものの、先行した報告のない時期の事例であり、一定の成果をあげることができた。また、潜水器漁業の事例として、徳島県阿南市伊島において聞き取り調査を実施した。 (2)については、佐賀県太良町において潜水器漁業による漁民移動の事例を、長崎県長崎市では以西底曳網漁業による漁民移動の事例について予備的な調査を行った。 (3)については、『大日本水産会報告』等水産関係雑誌や、漁民集団の出漁地にあたる長崎県の各市町村史等の文献調査を実施した。これにもとづき、以西底曳網漁業を総観的に把握することが可能となった。 平成23年度以降、とくに(1)と(3)の調査により得た情報をもとに、(2)の漁民集団の出漁地における現地調査を本格的に実施する見通しがたった。
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