平成22年度前半は、西洋中世から近世にかけて民事訴訟の原告が裁判官の職権の積極的介入を嘆願するために用いたいわゆる「効用フレーズ」の起源とその作用を、実務性の強い史料を用いて解明した。フレーズは中世法学が訴訟法理論を発展させた早い段階で既に広く知られており、当時における法知識普及の不十分さに起因するトラブルを回避するだけでなく、テクニカルな法知識を前提とした訴訟戦術にも応用し得るものとして位置づけられていた。この内容は「訴訟法書・公証手引書における『職権と当事者』」として公表が決定しており、海外雑誌での公表の準備もほぼ完了している。またドイツでの長期滞在期間中並びに出張により、民事訴訟における裁判官の積極的介入に関連すると思われる史料の収集を行った。具体的にはローマ法文C.2.10、C.3.1.9、D.11.1.21、教会法文X.2.3.3に関する中世から近世にかけての注釈・注解である。滞在するミュンヘン大学以外にマックス・プランク法史研究所(フランクフルト)にて文献調査・収集、複写・電子メディア化を行った。また現地専門研究者との意見交換にも努めた。今年度後半は、上記史料についての分析を行ったが、先行研究が極めて少ない領域であることもあり、現時点では残念ながら明確な見通しを得るには至っていない。他方、上記のフレーズの機能が中世末期以降に裁判官のより積極的な介入を導くものに変化したことを中心に、邦語で既発表の業績に加筆・修正を加えたものを斯界最高水準の雑誌に掲載することができた。また、日独共同の研究プロジェクト「ヨーロッパ法史研究に対する日本の寄与」(代表者・屋敷二郎一橋大学教授)に参加し、今回の研究テーマの前提となる研究内容についてのドイツ語論文をすでに脱稿済みである(2011年度刊行予定)。その他、本研究テーマに関連する内容の講演について翻訳を行った。
|