研究課題/領域番号 |
22730001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
水野 浩二 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (80399782)
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キーワード | ヨーロッパ / 中世 / ローマ法 / 裁判官 / 民事訴訟 / 近世 / 近代 / 当事者 |
研究概要 |
1 本年度前半は、民事訴訟手続中における裁判官の積極的介入を根拠づける法文として中世学識法学の解釈論で用いられたローマ法文の一つである、C.2.10.un.についての中世後期における解釈論の展開を分析した。当事者提出の法・事実の不適切な点の職権による補充を扱う本法文の解釈論は、弁護士との役割分担によって職権関与を限定する思考から、両当事者に対等にふるまうという思考を経て、14世紀半ば以降には当事者の姿勢とかかわりのない形で端的に職権の介入を肯定するように明確に変化していったことが判明した。この解釈論は近世法にもそのまま受容されたとみられ、(先行研究における当事者主義的な位置づけとは異なり)中・近世の学識的訴訟手続においては職権の積極性が漸次強化されていったと評価すべきだと思われる。以上の内容について学会報告を行い、それに関連する内容の翻訳を公表した。2 (1)本年度後半は、裁判官による当事者尋問などについての同時期の法文の解釈論を検討し、上記の見通しの正当性をより多面的に論証することに努めた。(2)また、民事訴訟の審理過程における裁判官の積極的介入は現代の民訴法学でもその理論的解明が強く望まれる研究課題であることに鑑み、中・近世法学の議論が近・現代の法解釈論にいかなる影響を与えているのかにまで研究対象を拡大することとした。手始めに19世紀ドイツの民訴法学、その影響を強く受けて行われた日本の大正民事訴訟法改正に関わる議論を検討し、論点の整理に必要な作業を行った。3 本年度予算の繰り越しにより2012年度にドイツ出張を行い、新たに必要になった史料・文献の調査を行い、また上記の知見について内外の専門研究者から好意的な反応を得ることができた。4 以上の作業に必要な書籍など物品を購入し、国内他大学に随時出張し、意見交換・情報収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究対象の拡大に伴い、本年度内に予定していた海外出張を延期し(予算繰越しにより2012年度に実施)、先行研究の整理など新たな作業が必要になった。しかし中・近世の学説の状況については一応の見通しが既に得られ、それに基づく学会発表を行い、内外の研究者から好意的な反応を得ることができた。民事訴訟の基本構造たる「当事者と裁判官の関係」について通時的な見通しを最終年度までに提示することは十分可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象をドイツ・日本の近・現代まで拡大したため、新たに収集した史料・文献の整理・検討を行う。翌年度が最終年度のため、対象を審理過程における裁判官の積極的介入のうち釈明と準備手続に絞り込むことで、本研究期間中に一応の見通しをつけることを目指す。
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