1 今年度は、民事訴訟手続における裁判官の積極的介入という視点から、大正15年の民事訴訟法改正について検討した。その起草・立法過程では当事者vs.職権という視点は口頭審理vs.書面審理という視点とリンクされ、裁判官が口頭審理での積極的な職権行使により真実に基づく裁判を実現すべきであるという立場(〈口頭審理における職権の積極性〉と呼ぶ)に向けて緩やかなコンセンサスが成立していた。これまで大正改正の目玉と通常理解されてきた「迅速化のための」当事者の自己責任・職権進行主義は必ずしも至上命題とされてはいなかった。しかし〈口頭審理における職権の積極性〉は漠然としたイメージに留まり、口頭審理と職権の積極性の相補的関係は十分に理解されておらず、現状認識や制度趣旨の認識の未成熟、表面的な結論の一致が多く見られ、わが国における近代民訴法理論・実務両レベルの継受という、なお未開拓の研究領域の問題性が浮き彫りになった。 2 上記のあり方の直接の背景として、弁護士能力の低さへのコンセンサス(含弁護士)の存在が挙げられる。「お上依存」気質や社会運動系の思潮は起草・立法過程に殆ど明示的な影響を与えていない。大正改正の目指した〈口頭審理における職権の積極性〉は墺「社会的」民訴法(1895)の影響として従来理解されてきた。しかしこのラインは既に19世紀ドイツの民訴法諸立法(草案)に明瞭に見られ(関連する書評を『法制史研究』62号に公表決定)、更には中世ローマ・教会法以来の民訴手続の一つの系譜として把握すべきと考える。以上の知見は学会報告にて積極的な評価を得、査読学会誌に投稿予定である。 3 以上の作業に必要な書籍など物品を購入し、国内他大学に随時出張して意見交換などを行った。また、前年度研究実績に関連する業績が公刊され、前年度実績にドイツの専門家から積極的評価を受けて欧文での公表準備を進めている。
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