本研究は、最新の日本法制度の議論と照らし合わせながら、現在の中国法規定の具体的な適用の状況を踏まえ、物の権利移転に関する紛争解決について、浮上してきた諸問題の全貌を解明したうえで、問題解決の方法を提案することを目的とする。 研究の初年度では、問題解決に相関する基本的な作業、たとえば、資料収集や現地でのヒアリング調査などが行われた。 また、研究が進行している中、様々な社会問題が深刻化してきた中国では、2009年年末に採択された「侵権責任法」は2010年7月に施行された。本法は、「不法行為に関する法律制度を完備し、民事紛争を減少し、多くの人民の合法的権益を保障し、社会の公正・正義を促進し、社会の調和と安定を促進する」という目的を孕んでおり、極めて意欲的な法律である。従って、「侵権責任法」を適用する際に、本研究のテーマである物権法の適用と競合する場面が生じると思われる。たとえば、「侵権責任法」は、その法的効果について、金銭賠償を原則化とせずに、侵害の停止、妨害の排除、危険の除去、財産の返還、原状の回復、損害の賠償、謝罪、影響の除去・名誉の回復を救済方法として設けており、単独または併合的に適用できるとしている。一方、中国物権法の第三章において、返還請求権(第三四条)、妨害排除・予防請求権(第三五条)、原状回復請求権(第三六条)及び損害賠償請求権(第三七条)等の物権の保護に関する内容を規定している。そこで、両規定が競合する場合ではいかなる方法により問題が解決されるのかという問題意識を踏まえつつ、布石する作業の一環として、まずは2010年度の比較法学会において「中国新不法行為法の概要と比較法的特徴」を題とする報告をし、論文を完成した。2011年度では、これらの基礎分析を土台に研究の展開を予定している。
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