本研究の目的は、コモン・ローの刑事訴訟手続の中心的特徴である陪審の一類型で、刑事事件につき正式起訴の決定にあたる大陪審の起源である起訴陪審が、12世紀のイングランドで成立した原因を、当時の教会法および教会裁判手続の観点から解明することにある。最終年度にあたる本年度に実施した研究の成果については、以下に示す通りである。 本年度は、起訴陪審を成立せしめた1166年のクラレンドン法と、起訴陪審成立の原因を究明するための鍵の一つとされている1164年のクラレンドン法第6条の内容を分析するとともに、12世紀のイングランドの国王裁判所と教会裁判所で用いられていたそれぞれの訴訟手続の実態を、裁判実務関連史料(法書、訴訟手続書(ordo iudiciorum)、教令、公会議決議、年代記、判決確認文書、権利証書、書翰など)に基づいて考察した。また、裁判実務関連史料については、その写本をロンドンの英国図書館、ケンブリッジ大学図書館などで閲覧・調査した。 その結果、以下の諸点を明らかにすることができた。(1)当時の教会裁判所において、糾問手続が、別の型の手続と並んで用いられていた可能性があること、(2)12世紀に権限を拡大しつつあった大助祭は、教会裁判官として、糾問手続を用いた裁判を行っていたとみられること、(3)当時のイングランドにおいて、大助祭の権利濫用が批判されていたこと、(4)以上のことが、国王裁判所における起訴陪審成立に関連があると考えられうること、以上の四点である。
|