平成22年度前半には、研究実施計画において予定したとおり、行政行為の中でも私権を形成するもの(私権形成的行政行為)を取り上げ、そのうち物権(占有権、所有権、用益物権及び担保物権)を発生させ、変更し、及び消滅させるものについて、列挙作業を行った。この作業は同年度末を待たずして終了したため、同年度後半から、列挙した立法例についての分析を開始することができた。同年度に得られた成果の一部は、全体の終了を待たずに公開することとした。自治研究に掲載した「建築確認の取消訴訟において東京都建築安全条例4条3項に基づく安全認定の違法を主張することの可否」は、判例評釈の部分と一般理論の部分から成り立っており、後者の部分において、平成22年度前半における研究成果の一部を公表している。違法性の承継については、これまで抽象的なレベルの議論にとどまってきたが、同論文では実定法上の行政過程を通覧した上、類型化を試みることにより、数多くの先行業績のいずれにもみられなかった新たな視点を打ち出している。具体的には、健康保険法、地方税法、農地法等の立法例をその根底となる考え方に遡って分析を加えた後、行政過程の安定化の必要性と失権の合理性を比較衡量する際の基準を示すことができた。また、北大法学論集に掲載した「内閣法制局の印象と公法学の課題」は、本研究の構想する行政法理論のあり方の全体像を示すものとなっている。新たな立法と既存の法体系との整合性については、幾つかの例を挙げつつ、試論を展開している。これはもとより本研究による成果の片鱗を明らかにしたものにとどまるため、来年度以降の研究を通じて、各論部分の肉付けを行っていくこととしたい。
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