平成23年度には物権を形成する行政行為の調査及び分析を予定していたが、年度末までにこの課題をおおむね達成することができた。具体的には、占有権、所有権、地上権、永小作権、地役権、留置権、先取特権、質権及び抵当権をそれぞれ発生させ、変更し、及び消滅させる行政行為につき、明治期以来の立法例を網羅的に列挙した後、これを系統的に分類し、それぞれの類型についていかなる侵害作用がいかなる論理を基にして正当化されているかを跡づける作業を行った。このような作業は、わが国はもとより欧米先進国においても例をみない、全く独創的な業績である。その分析は多岐にわたるが、具体例を挙げると、まず国税の優先権につき、これを民法上の先取特権であると同定した上、解釈論的には不動産から動産への差押え換え請求を柔軟に認めるべきであるとし、立法論的には外国貨物に対する関税の優先権が通関後に成立した質権に優先するという関税法の規定に違憲の疑いがある点を指摘した。また、民事再生法等にみられる担保権消滅の許可は、民事法内在的な論理では正当化することができず、むしろ統制立法にみられる担保権の処理の裁定に近似する点が論証されている。さらには、入会権につき、法人格のない労働組合の解散に関する判例法理等を参考として、一定の場合にこれを消滅させる行政行為を設けることも許容されると結論づけている。このような分析は局所的・表層的な検討でなく、他の物権を侵害する国家作用や過去の法令を広汎に検討した上で説かれた主張であり、説得力に富むものということができる。
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