平成25年度は、私権形成的な行政行為のうち、担保物権及び入会権・旧慣使用権を形成するものの立法例を系統的・類型的に分析する作業に割り当てられた。具体的には、留置権、先取特権、質権、抵当権及び入会権・旧慣使用権を発生させ、変更し、消滅させる行政作用を、立法作用及び司法作用と対比させながら、明治初期から現在までに現れたすべての立法例を正当化する理論的な根拠を明らかにすることができた。とりわけ近時の倒産法制の再整備で現れた担保権消滅請求制度が戦時中の企業整備令と共通性をもち、公用収用の一種として把握されるべきものである点、いわゆる国税の優先権が民法上の先取特権にほかならないものである点、担保物権の損失補償制度と特別法上の物上代位との相互関係を理論的に整理すべきである点、入会権・旧慣使用権には合理的に許容される使用収益量があり、判例等もこのことを前提としている点等を指摘することができた。 また、平成25年度が研究期間の最終年度に当たることから、本研究の成果を『国家作用の本質と体系I』にまとめて、研究期間の終了に先立って1冊の書籍にまとめた形で公表することができた。そこでは、行政訴訟法と比べて立ち遅れている行政実体法の研究を進めること、行政法各論のあり方を模索すること、憲法の違憲審査論と行政法学との方法論的な架橋を試みること、行政法と民事法の相互関係をありのままに認識することという目標を掲げた上、人・法人・物たる資格、時効の利益、所有権、地上権、永小作権、地役権並びに上記の担保物権及び入会権・旧慣使用権を形成する国家作用につき、遺漏・重複なく立法史的分析を尽くした後、国家による既得権の侵害を正当化する理論的根拠に基づいて、各立法例を体系化すべきことを主張した。このような正当化根拠は、内閣法制局が法令審査をするに当たってよるべき基準を提供すると考えられる。
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