本研究は、政策税制を「一定の政策目的(社会的・経済的目的)を達成するために租税負担を軽課あるいは重課する措置」として位置付け、政策税制が本則課税との間で不公平を生じさせることを前提として、こうした不公平が許容される条件(政策税制が正当化根拠)について研究することを目的とする。 近年、日本では、高齢社会を背景として、とりわけ中小企業の事業承継をいかに円滑に進めるかが課題となっている。事業承継税制は、相続税・贈与税の税負担を軽減することによって、円滑な事業承継を進めることを目的とした政策税制と位置付けられる。本研究では、中小企業のための事業承継税制を素材として、政策税制の正当化根拠の検討を行うこととした。また、日本だけでなく、フランスにおける事業承継税制との比較検討を行うこととしている。 本年度は、日本における中小企業のための事業承継税制について、その歴史的展開などについての基礎的研究を進めた。平成20年の「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」のもとでの「事業承継税制」は、それまでの租税特別措置としての中小企業に対する優遇措置とは質的な意味での変化があったと考えられる。また当該事業承継税制については、事業承継ではなく事業主承継のための制度になっている(事業主の親族たる後継者に対する優遇にすぎない)との批判があった。この点は、政策税制の正当化根拠を考える上で重要な指摘であり、制度設計(優遇措置の内容)が政策目的に対応したものとなっているか、厳密に検討する必要性を認識した。
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