平成25年度については、主に、現在のアメリカ憲法学における保守主義法理論が過去のアメリカ憲法学の歴史について行っている見直しの成果を摂取して、芦部信喜を代表とする日本の憲法学がアメリカ憲法学と対峙する中から形成したいわゆる憲法訴訟論について、その意義を再検討する研究を行った。 このような研究からの具体的な成果としては、立法事実に関する研究について公表することができた。アメリカ憲法学において立法事実(legislative facts)という言葉が用いられる場合には、司法の権力性(司法による立法)という問題関心の下で、司法権力をいかにして客観化するかという観点から用いられていると理解すべきであるように思われる。それは、合憲性推定原則において問題とされる「法律の合憲性を支える事実」とは区別されていると考えられる。これに対して、日本の立法事実論は、司法権力をいかにして客観化するかという同様の問題関心に基づくものではあったが、それにより司法の違憲審査権行使を正当化する役割を期待してきたように思われる。このことが、合憲性推定原則との区別を不鮮明にしてきたのではないだろうか。このような日米の相違は、裁判所による実際の司法審査のありように関する日米の相違を反映するものであると考えられ、また、憲法学の問題関心の相違を反映しているように思われる。 このような成果は、日本の憲法学のあり方に関して、より客観的な自己理解を可能にするのではないかと思われる。また、立法事実論や合憲性推定原則以外の、憲法訴訟論におけるさまざまな概念についても、同様の問題関心の下に再検討するという視角を提供するように思われる。
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