今年度の研究成果は次の3点にまとめられる。 第1は,国際機構への多層化の具体例として,証券・保険分野における格付機関との比較可能性が大きい「適合性評価」をとりあげたことである。適合性評価の場合には格付機関と同じような一層構造(適合性評価機関と被評価者の関係のみ)のものと,二層構造(適合性評価機関の一般的なガバナンス構造をメタ評価する認定機関が上位に存在)のものとがある。いずれの構造においても国際的な相互承認の枠組が形成され,そのプライベート・ガバナンス構造が国家間の相互承認協定(MRA)を補完するしくみが見られる。 第2は,自治組織への多層化の具体例として,特区制度とりわけ復興特区をとりあげたことである。東日本大震災からの復興のために立法化された復興特区は,沖縄における特区制度以来の特区の歴史に新たな特色を加えるものである。その制度設計過程を踏まえた上で公法学から見た理論的な特色を整理した。 第3は,総論へのアプローチとして「正統性」「正統化」の概念を分析の軸としたことである。正統性の概念を従来の考え方よりも拡張した上で,市場による正統性調達ルートと,民主的政治過程による正統性調達ルート(民主政的正統化)とを対置させ,相互の補完可能性が語られうる条件付けを検討した。こうした作業は,国際金融市場における統合のみならず,より広い経済的な統合(TPPはその一例である)における公法学の寄与可能性を探る上での基礎研究と位置づけうる。
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