平成23年度は労働に関する問題を中心に検討しながら、研究の総括を行った。具体的には、(1)アメリカにおける外国人に対する労働規制の問題の検討(平成24年度に研究成果を公表予定)、(2)アメリカにおける医療保険改革をめぐる議論の検討(「生存権論の軌跡と課題」ロースクール研究18巻117-119頁参照)、(3)憲法25条と生活保護制度についての検討(「憲法25条と生活保護制度」月報司法書士483号掲載予定)、(4)国際人権法と憲法25条についての検討(「国際人権規約と憲法25条」法律時報84巻5号61-65頁)、(5)昨年度からの研究の総括を行った。(1)は、滞在国において憲法上の地位が弱い「外国人」の労働規制と憲法との関係を考察することによって、いわば裏面より労働と憲法との関係を考察したものである。(2)は、2010年の医療保険改革法の合憲性をめぐる判例、学説を検討したものである。(3)においては、生活保護制度、ひいては労働に関しても憲法25条が果たすべき役割を検討した。(4)においては、国際人権規約を援用した裁判例を検討し、憲法学が参照すべき、福祉に関する新たな規範的指針が見いだせるか否かを考察した。そして、(5)のまとめにおいては、昨年度からの成果を踏まえつつ、「福祉国家」と憲法解釈についての論文をまとめ、平成24年度に公表予定である。福祉・労働・「格差問題」と社会権論について、本年度の(2)、(5)において特に「福祉国家」規定という客観法的規定に着目しながら検討を行い、いわゆる「格差問題」に対する憲法学からの規範的指針(司法的救済のみならず立法ないし政策策定指針も含む)を一定程度導出することができたと思われる。
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