本年度は主として、アメリカと日本の文献研究を並行的に行うことによって、行政訴訟において裁判官の個性が与える影響について検討した。研究課題以外の依頼原稿の執筆に追われ、本年度は研究課題に関連する成果を公表できなかったが、下記の通り、研究は進行中であり、来年度以降には論文を公表できる見込みである。 アメリカについてはヴァーミュルやサンスティンの論文を手がかりに、21世紀に入ってからのアメリカの連邦裁判所の判例やニュー・ルーガルリアリズムと呼ばれる動向について理解を深めた。この研究により、アメリカの行政訴訟では裁判官の個性が判決に影響を与えることが日本より多いという印象を得たが、まだ考察が不十分であり、多くの文献にあたって精査する必要があると考えている。これについては来年度には論文の執筆を開始したい。 日本については、白石健三裁判官の思想に注目して日光太郎杉事件判決を再読することを試みた。日光太郎杉事件判決は、裁判所による法創造に積極的であった白石の個性が発揮されたものであり、そこで示された判断過程の統制の手法も、東京地裁のいわゆる白石コートの下での諸裁判例で示されていた行政庁の他事考慮への警戒心が基礎にあるのではないかという心証を得た。近時の最高裁判例の判断過程の統制の手法との関連で日光太郎杉事件判決への批判をする動きも学界に現れているところであり、日光太郎杉事件判決の位置づけを再考し、そこで示された判断過程の統制の手法を近時の最高裁判例の判断過程の統制の手法と比較検討する論文を現在執筆中であり、来年度には完成の予定である。
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