研究課題/領域番号 |
22730033
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
上田 健介 近畿大学, 法務研究科, 教授 (60341046)
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キーワード | 首相 / 内閣府 / (政策)顧問 / 与党議員 / 各省割拠主義 / 政策の立案 / 政策の実施 |
研究概要 |
今年度は、イギリスの在外研究を機に、この10年のイギリスにおける内閣制度の変容について研究を行った。その結果、ブレア政権下で、首相の権力が--その内容の当否は別にして首相が自らの政策を実現できるという点において--一層強化されていること、その具体的な現れとして首相府(No.10)及び内閣府(Cabinet Office)の組織が大きくなり、またこれらの組織による各省の具体的政策に対する関与も高まっていること、さらに、内閣レベル、各省レベルともに、政策に関して特別顧問(Special Adviser)の果たす役割が重要になっていることが明らかとなった(なお、その過程で、イギリスにおいても、日本と同様、伝統的に各省大臣が法律による授権の名宛人であり政策を起案し実施するのも原則的に各省であることが判明した。このような伝統にもかかわらず、イギリスでは首相の権力が非常に強まっているのである)。もっとも、議会との関係においては、従来はあまりみられなかった平議員の「反乱」が増加してきており、現在のキャメロン連立政権下でも、EU政策や社会保障・財政政策などをめぐり政府指導部に対する異論が公然と与党内部から出されるという現象もみられる(とはいえ、最終的には首相の意向が実現している点には留意が必要である)。 他方で、小泉改革後の日本の内閣制度の変容をみると、内閣官房及び内閣府で政府の重要政策が起案される傾向が窺われる。震災後に設立された復興庁も内閣に直接所属する部局であり、組織の点からみれば、伝統的な各省割拠主義に対して首相の地位が高まってきていると評価できる。もっとも、首相が自らの政策を実現できている程度という点ではなおその権力は弱い--あまりにも政策実現の速度が遅い--といえる。また、鳩山政権下でみられたように、各省レベルで大臣が適切に政策の立案と実施を行えているかにも疑問が残る。 これらの点より、日本の内閣制度は大きな制度上は首相及びその周辺の強化がなされているといえるが、その運用面において問題があるという知見が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
3年間の研究期間の2年目に当たるが、当初の予定にはなかったイギリスにおける長期の在外研究(2011年8月から1年間)が入ったため、前期は講義負担が倍増した。また、在外研究中は、イギリスの現在の制度との比較に関する研究は進展しているが、日本の文献を参照できないため、日本における内閣制度形成史の研究は遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
イギリスにおける長期の在外研究という、当初の計画にはなかった出来事を活用するため、8月までの在外研究中には、イギリスやドイツにおける内閣制度の歴史と日本における受容と変容という基本的な計画は維持しながら、より実践的でアクチュアルな、イギリスにおける現代の内閣制度の発展と日本における内閣制度の現在の比較を行いたい。9月の帰国後、講義負担が倍増するため、充分な進展は得られないかもしれないが、日本の内閣制度の形成史の考察のための史料を読み進めたい。
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