研究概要 |
平成23年度においては、平成22年度に引き続き、国際私法学における当事者自治の原則について、理論的検討を深めた。研究が十分に進んだ場合に行う予定であった19世紀以前の学説の検討までは進まなかったが、20世紀における当事者自治の原則の理論的変遷及び19世紀から20世紀初頭における当事者自治の原則の取り扱い、特に当事者自治に批判的な学説を中心に検討した。また、これらの検討の中で、一般理論の検討と同時に、個別の具体的問題、特に具体的な問題における当事者自治の肯否の対立に焦点を当てる必要性が生じたため、契約債権に関する問題であるにもかかわらず、一般的に当事者自治原則が排除される通貨法に関する問題(特に法定通用力に関する問題)の検討を行い、具体的には、例えば、Knappの貨幣に関する理論研究を研究した。 また、民法学における私的自治の原則の理論的基盤,更には,そもそも法律学における私人の意思の取り扱いについても分析を開始、進行させた。その結果として、本研究が当初想定していた仮説である「当事者自治と私的自治が,共通の理論的基盤に立脚する法原則であることの論証」について、一定程度の合理性と、一定程度の修正の必要性が共に認識された。 なお、本研究を基盤とする著作として、櫻田嘉章=道垣内正人編『注釈国際私法第1巻』(有斐閣、2011年)において、準拠法の事後的変更に関する論文を執筆した。具体的には、竹下啓介「第9条(当事者による準拠法の変更)」」同書213~229頁、竹下啓介「第16条(当事者による準拠法の変更)」同書417~425頁、竹下啓介「第21条(当事者による準拠法の変更)」同書510~525頁を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初本研究が想定していた仮説である「当事者自治と私的自治が,共通の理論的基盤に立脚する法原則であることの論証」については,平成24年度以内に完全に明らかにすることは困難であるし,むしろ,研究結果に基づいて当該仮説をより厳密な言明に修正する必要があると考えられるが,これまでの研究の進行状況に鑑みると、当事者自治と私的自治との関係性について,少なくとも新たな思考枠組みを提示する予定であるから。
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