平成24年度においては、国際私法学における当事者自治の原則について、平成23年度に実施することのできなかった19世紀以前の国際私法学説の検討を中心として、理論的検討を深めた。19世紀以前(より正確には、Mancini等によって現代型の当事者自治原則が主張される以前)は、異論もあるものの、現代型の当事者自治原則は登場しておらず、そのことの理由を探求するため、Savigny等の国際私法理論体系の分析を進めた。また、平成23年度に引き続き、契約債権に関する問題であるにもかかわらず、現代においても当事者自治の否定される問題の検討及び法律学における私人の意思の取り扱いについての検討も行った。 そして、これらの研究の結果として、本研究が当初想定していた仮説である「当事者自治と私的自治が,共通の理論的基盤に立脚する法原則であること」につき、①そもそも現在における当事者自治と私的自治は、かなりの程度、機能的に互換可能である一方で、やはり本質的な差異としていわゆる強行法規の連結に関する問題が残ること、②当事者自治と私的自治をRousseau以来の社会契約論における個人の自由を鍵に共通の理論的基盤に立たせることも論理的には不可能ではないが、国際私法学全体の体系的観点からすると、かなり不自然な理論的枠組みとなること、③自然な法理論体系という観点からすると、現代の国際私法における当事者自治原則は、私的自治の原則とは異なり、不自然なものであり、当事者自治原則自体の当否はともかく、その原則自体の意義を正確に理解するためには、不自然さを十分に認識しなければならないことを明らかとした。 なお、本研究の成果として、当事者自治原則の理論的基盤を検討した英語論文をほぼ完成させている。研究期間内における公刊には至らなかったが、今後、英語雑誌等への投稿により、公表する予定である。
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