本研究計画は、国連海洋法条約において認められた各海域と海底の法的性質について考察することを研究課題として設定しており、各海域や海底における秩序形成および維持について責任を担うアクターおよびその権限の特定、アクター間の調整を構想することを究極的な目的とする。 本年度行った研究は以下の二つである。第一に、海洋を含む領域秩序の変容、とりわけ脱植民地主義の影響をシンガポールとマレーシア間のペドラ・ブランカをめぐる交際司法裁判所判決から検討した。本件では、近代以前の「海の民」の活動を領域秩序や海洋秩序の中でどのように位置づけるか、さらに、そうした位置づけが脱植民地主義を経て変容しているのかを窺い知れるものであった。ケーススタディという形で成果をまとめ、公表した。第二に、海洋における科学調査の実施をめぐる法的問題を検討した。海洋秩序形成の前提的知見を得る海洋科学調査をめぐって、国連海洋法条約は、どのように権限と責任を各アクターに配分しているかをコメンタリや二次文献に即して考察した。公海において自由とされてきた海洋科学調査が、大陸棚や排他的経済水域という水域においてどのように規制されているのかという問題から、領海、大陸棚、排他的経済水域、公海の法的性質の理解を照射するものであった。また、海洋法条約制定から30年経つ現代における海洋科学調査法制のもつ諸問題を抽出することによって、国際情勢の変化や海洋ガバナンスへの視角の変遷を跡付けることを試みた。この作業は資料や先行研究が十分でないことから進捗が捗々しくなく、次年度も引き続き行い、まとまった時点で公表を行う予定である。
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