平成24年度は、前年度までに行ったアフリカの実行を及び欧州における事例検討を基礎に、2つのことを中心に課題に取り組んだ。一つ目は、米州人権条約における実行の検討であり、二つ目にはこれらの国際的事例検討から見た日本の状況の検討である。前年度までで外国における資料蒐集はほぼ必要なものが揃ったと判断できたので、今年度は海外における資料蒐集は行わず、国内において補充的な資料蒐集を行った(一橋大学、東京大学など)。併せて、学会及び研究会などの場において多くの研究者と議論を行い、研究課題についての理解を深めた。 これらの活動により、明らかになったのは以下の通りである。上記一点目(米州人権条約における社会権の保障態様)から明らかとなったのは、米州人権条約における社会権の保障は、欧州及びアフリカと同様にかなりの程度見られることである。しかしながら、その保障態様あるいは論理構成にはかなりの相違が見られた。具体的には、欧州及びアフリカでは、明文の定めがない社会権を包摂する論理として、財産権あるいは差別禁止原則が用いられてきた。しかしながら、米州人権条約においてはこれらの点はさほど重視されていない。むしろ、欧州人権条約ではあまり援用されることのない生命権を根拠に、保健衛生や収容施設における病状の悪化などの事例において国家の義務違反が認定される事例が見られることが明らかとなった。かかる相違を体制間の相違で終始させず、社会権の国際的実施に関する論理構築につなげることが、今後の課題である。 上記二点目(日本の状況の検討)では、外国人の生活保護法上の位置づけが争われた事例(福岡高裁平成23年11月15日判決)を題材とした。これまでの研究成果から見たときの問題点を明らかにした。これらの研究成果はそれぞれ論文により公表している。
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