本研究の目的は、「国および国の財産の裁判権免除に関する国際連合条約」(以下、国連国家免除条約とする)と慣習国際法との関係を明らかにすることにある。平成24年度は、主として不法行為事例について以下の3つの側面を重点的に検討した。 (1) 域内不法行為例外を規定する国連国家免除条約12条に関し、免除が否定される根拠及びその射程等を明らかにすべく起草過程やコメンタリー等を検討した。 (2) 国連国家免除条約12条に対応する「外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律」(以下、国家免除法とする)10条について、免除が否定される根拠及びその射程等を明らかにすべく起草過程等を調査した。 (3) 不法行為に関する国家実行上の国家免除の判断基準、免除の射程等を解き明かすために、国際判例や国内判例等を調査した。とりわけ国際司法裁判所「国家の裁判権免除に関する事件」判決(2012年)について、その意義と射程を検討した。 以上の検討の結果、(1)国連国家免除条約12条は、業務管理的行為か主権的行為かにかかわらず適用される規定であるが、少なくとも1991年に条文草案が採択された時点では、交通事故以外の域内不法行為について免除を否定する部分は漸進的発達と評価されていたと解しうること、(2)国家免除法10条の起草過程では、国連国家免除条約12条と同内容の規定が特段の争いなく認められたが、軍事的活動・外国軍隊の活動は同条約ひいては同法の適用対象外と解されていること、(3) 2012年国際司法裁判所判決は国家実行及び条約上の対応が分かれている事実を提示したにとどまるが、同判決の文脈を踏まえると、同裁判所が条約12条及び国内法の域内不法行為例外条項を慣習国際法に反するものと評価していたとは解し難いことが明らかになった。
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