平成22年9月までフランス・パリ第十大学にて在外研究を行ったため、今年度はほとんどの研究時間をフランス法の研究に費やした。 市場と社会保障の関係を分析するという大きなテーマの中で、本年度の具体的な研究テーマは大きく分けて2点にわたる。まず、フランスにおいて、社会保障を補完する民間保険について、社全保障において要求されるようなルールがしばしば課され、契約自由の原則が制限されていることに着目し、そもそも、フランスにおいて社会保障と市場に対する理解のあり方が、日本のそれとは異なるのではないかという仮説(より具体的には、日本において社会保障がもっぱら公的なものに分類されるのに対して、フランスの社会保障には、国とは明確に区別された「社会的」な性格が認められており、このことが、日本では市場に属するものとして社会保障と対置される私保険についても異なる方向性の法規制や位置づけを導いているものと思われる)を立て、この仮説について、フランスの補足的医療保険に着目をして検討を深めることとした。特に、両国におけるこのような社会保障制度・私保険に対するこのような見解の違いの源流を探るために、フランスの補足的医療保険において中心的なアクターであるいわゆる「共済組合」(mutuelles)の発展の歴史や、この組織の国家ないし私保険との関係について詳細な検討を行った。この研究の成果は、後欄11にあげた「フランスの補足的医療保険」と題した論文において公表を行った(未完)。 また、フランスの近年の雇用政策において、雇用市場に対する政策が、雇用契約・社会保障制度との関係でどのように構築されているかを、近年のワーキング・プア問題も視野に入れ検討・分析し、後欄11にあけた「フランスの雇用政策」と題した論文において研究成果を公表した。 (なお、申請書において2011年度末に開催予定と記載した日仏社会保障に関する会議は、諸般の事情により2012年夏に延期となった。)
|