雇用形態の多様化と急速な失業情勢の悪化により、失業時の所得保障の重要性がかつてないほどに高まってきている。他方で、失業時生活保障におけるセーフティネット機能の脆弱性が指摘され、失業時生活保障制度の再構築は急務の課題である。本研究は、我が国の(1)雇用保険法、(2)生活保護法、イギリスの(3)保険給付としての求職者紺付、(4)社会扶助給付としての求職者給付について、生活保障と再就職支援を検討することにより、日本法の再構築を検討するものである。 本年度は、上記の全てに関係する研究成果を公表した、具体的には、(1)イギリスにおける失業給付法の立法史につき、20世紀初頭から今世紀に至る制定法上の変容を確認し、(2)政権交代後の求職者支援法の動向に関する文献調査を行い、(3)就労自立支援に関する法的構造を研究し、(4)自己都合退職に係る給付制限の法的構造をまとめた。 これらで得られた知見をもとに、我が国の求職者支援法制に関して、現行法ではいかなる法的構造が採用されているのかを確認し、将来の方向性を描いた。また、この分野で豊富な経験と先駆的な取組を行ってきているイギリスの法制について、世帯単位原則の変容という近年の理論展開と、求職者の権利と義務を基調とした近年の法改正について、その理論的背景も含めて検討を加えた。 我が国でも失業時の所得保障として生活保護法と雇用保険法との中間に位置する求職者支援法の制定が議論されている。求職者支援法では、求職者が職業訓練を受講することが要件とされているが、その権利義務構造が明らかになっているわけではない。本研究ではこれに一定の視座を与えうるものである。
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