平成22年度は、次に掲げる2つを軸に、研究を遂行した。第1にわが国の審判決例の収集・分析、第2に米国先例のデータベース化である。以下、敷衍する。 1.わが国の審判決例の収集・分析 独禁法に違反する「不公正な行為」の内容を考察するためには、公取委により事件化された審判例や独禁法を根拠として提起された民事判決の収集・分析に加えて、特定商取引法及び消費者契約法等を根拠として提起された民事判決の収集・分析も重要である。なぜなら、後に掲げた独禁法以外の諸法律に違反する行為類型は、独禁法で禁止されるべき「不公正な行為」に外形上重なるものが多いからである。したがって、平成22年度の前半は、研究課題に関係するわが国の審判決例を、独禁法にかかる事案に限らず収集しデータベース化した。同年度後半を通じて、援用された法律は異なるが、しかし、問題とされる行為の(消費者にもたらす)実質的な効果が類似する事案を抽出し、比較法研究を行う際の基礎的資料として役立てるための準備作業を行った。 2.米国先例のデータベース化 平成22年度後半から、米国FTC法5条を根拠として消費者に対する「不公正な行為・慣行」を規整している米国での先例を収集しデータベース化する作業を遂行した。連邦取引委員会は、消費者に実質的な損害を与えるものか否かを最重要視して、多岐にわたる行為をFTC法5条に違反する「不公正な行為・慣行」として禁止しているため、わが国の先例とFTC法5条にかかる先例とを比較することで、各国法を個別に眺めているだけでは把握しにくい、わが国独禁法で禁止するべき「不公正な行為」に対する日米法の共通理解を抽出するために有益だからである。
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