本年度においては、「刑事手続における公正な裁判の保障について」と題する課題の研究に関する一環として、在宅被疑者の取調べの許容性というテーマを取り上げて、研究を行った。在宅被疑者の取調べに関連する著名な判例としては、最高裁昭和59年2月29日決定(高輪グリーンマンション殺人事件)及び最高裁平成元年7月4日決定(平塚ウェートレス殺人事件)が挙げられるが、それを契機として、任意取調べである在宅被疑者の取調べの違法性の実質はどのような点に求められるかが議論されている。そして、この点に関しては、いまだ決着を見ていないのが現状である。そこで、任意取調べである在宅被疑者の取調べの違法性の根拠という点にもっぱら着目し、在宅被疑者の取調べの許容性に関して理論的な検討を加えた。その際、従来の学説の状況を概観するのみならず、それらに対して批判的に検討をおこなうことで、一定の私見を得た。そこでの検討の成果は、横浜国際経済法学誌上において論説として公表されるに至った。他方で、本年度においては、やはり「刑事手続における公正な裁判の保障について」の研究の一環として、公訴時効制度の存在理由についての検討に着手した。これは、近時の公訴時効制度に関する刑訴法改正、すなわち、一定の犯罪についての公訴時効廃止及び公訴時効期間延長という事態に触発されたものであるが、広く関連する文献・資料を収集しつつ、鋭意検討を進めているところである。
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