本年度においては、「刑事手続における公正な裁判の保障について」と題する課題の研究に関する一環として、特に公訴時効制度に焦点を当てながら、研究に取り組んだ。近時、公訴時効制度に関する最高裁判例として、最高裁平成21年10月20日決定が出されたが、それを契機として、公訴時効制度の存在理由はいかなる点に求められるか、その裏腹の関係のものとしての公訴時効停止制度はいかなる理由に基づいて規定されているのか、といった点について、従来の学説の状況を踏まえた上で、理論的な整理・検討を行い、一定の私見を得た。そこでは、特に公訴時効制度の存在理由につき、従来とは異なる視点からの基礎付けも可能であることの指摘に専ら重点を置いた。なお、その成果は、横浜国際経済法学誌上において判例研究として公表されるに至った。さらに、刑訴法における強制処分の意義について再検討を行った。むろん、この点につき重要な判断を示したのは最高裁昭和51年3月16日決定であるが、本決定をどのように実質的に理解するのかについては、議論の余地がある。そこで、従来の通説的理解を取り上げ、それを批判的に検討することで、一定の私見を得た。そこでの検討の成果は、横浜国際経済法学誌上において論説として公表されるに至った。そのほか、即決裁判手続の合憲性が問題となった最高裁平成21年7月14日判決について、理論的分析・検討を加え、その成果は、判例評論誌上において、公表された。
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