近時わが国でもその立法化が検討されている共謀罪(犯罪実行を目的とする合意自体に基づき成立する犯罪)につき、その成立の本質的要件たる「共謀」の概念的明確化を図ることを目的とする本研究では、本罪の模範とも位置づけられるアメリカ刑法における共謀罪を比較法的研究の対象とすることで、本年度は、他の共謀者により実行された、共謀の対象ないし目的ではなかった犯罪についてもその非実行共謀者にその犯罪の成立を認めた近時のアメリカ判例を取り上げ、本事案の争点の本質が共謀の射程との問題であることを明らかにした(下記「研究発表」欄参照)。 わが国でも共犯関係の解消等との関連で近時積極的に論じられている共謀の射程との論点においては、当然ながら共謀がいかなる犯罪を目的としていたかが前提となるため、共謀概念としても共謀者の主観的意図がクローズアップされ、またわが国判例上砲立されている共謀共同正犯において、非実行共謀者に共同正犯の成立が認められるのも共謀自体ではなく他の共謀者による実行行為の存在がその処罰を根拠づける客観的要件であるとして、共謀概念自体は主観的な心理状態であるとする見解もある。しかし共謀罪においては実行行為に至らない段階で処罰が肯定されるのであり、その成立範囲の制約に実行行為の存在を前提とすることはできない。共謀罪にあっては内心の如何を理由とする処罰を正面から肯定するのでないかぎり、共謀自体が客観的なものでなければならない、もしくは最低限顕示行為が必要ということになろう。 そこで次年度の研究においては共謀罪にあっても客観的要件が必要であろうことの更なる論証を図るとともに、これによる共謀概念の明確化を通じて、非実行実体犯罪についての共謀者の罪責(わが国では共謀共同正犯)範囲の問題を、アメリカにおける同様の判例法理論たるピンカートン・ルールの分析等を通じて行う予定である。
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