本研究は、経済活動に対する刑事規制の明確化・適正化のために、規定の文言が比較的抽象的な背任罪(刑法247条)を素材に、従来議論の中心であった「誰が背任罪の主体なのか」という点ではなく、「どのような行為が背任罪となるのか」を明らかにしようとするものである。 1.第一年度である本年は、研究実績計画に基づき、主として「財産上の損害」要件を検討の対象とし、日本とドイツにおける文献・判例の検討を中心に行なった。日本とドイツの双方において全体財産の減少という意味での「財産上の損害」要件がどこから出てきたか、そして、現在、どのような解釈及び具体的適用がなされているかを確認した。ドイツ刑法の研究においては、「財産上の損害」要件の解釈が、従来詐欺罪を念頭において展開されてきたこと、一方、現在では、財産移転罪である詐欺罪と移転以外の侵害形態も含む背任罪とでは、「財産上の損害」要件の解釈異なるのではないかという議論があることなどか確認できた。今後、さらに調査研究を進め来年度に成果を発表する予定である。 2.また、背任罪の行為態様である「任務違背行為」については、かつて「背任罪における任務違背に関する一考察(一)、(二・完)」(阪大法学59巻1号101頁、2巻41頁)において検討を行ったが、その後最高裁判例(拓銀事件)が登場したため、さらなる調査を行った。その成果は、背任罪と粉飾决算(違法配当、虚偽記載有価証劵報告書提出)を素材として経営者に対する刑事規制のあり方を分析した「経済活動と刑事規則」(法律時報82巻9号26頁)に反映されている。さらに、背任罪と会社法上の注意義務との関係について、平成23年度日本刑法学会ワークショップにおいて報告する予定である。
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