研究概要 |
平成23年度においては,文献研究,および研究会等における研究者・法律実務家との議論・意見交換を通じて,刑事事件処理の状況に関する内外の実情の把握に努めるとともに,これを踏まえた研究を行い,その成果の一部を論文及び研究発表として公表した。本年度においては,とりわけ,被疑者,被告人と捜査・訴追機関との間で行われる,一定の手続上の便宜供与を条件とした捜査・訴追協力として提供される供述証拠の取扱いについて,重点的に検討を加えた。こうした,いわば取引を通じて獲得される供述証拠に関しては,供述者の迎合に基づいているおそれがあって,類型的に信用性が低いと評価されることから,犯罪事実の立証に供される場合に,被告人本人に対して用いられる場合,および第三者(典型的には共犯者)の犯罪事実の立証に用いられる場合のいずれにおいても,その証拠としての許容性(証拠能力)に関する判断や,信用性を含む証拠価値(証明力)の評価がいかに行われるべきかが,検討すべき課題とされている。本年度において本研究は,こうして獲得された供述を立証に供する際に及ぼされるべき手続的規整について検討を加え,自白として用いられる場合と,あるいは第三者の犯罪事実の立証に向けて用いられる場合との,いずれにおいても,供述獲得過程を踏まえた形で証拠能力および証明力が検討されるべきであることを示した。こうした検討は,刑事司法制度に対する社会的要請を,被疑者,被告人に保障されるべき地位を踏まえ,かつ,誤判のおそれを避けうる適切な形で満たすために踏まえられるべき,理論的・実務的諸条件を明らかにすることにつながるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,刑事手続において,捜査機関・裁判所と、被疑者・被告人との間で行われる,取引的な交渉をも視野に入れて行われる事件処理方策に関して生じる諸問題を主たる検討対象とするものであるが,本年度においては,取引を通じて得られた証拠の取扱いについて重点的な検討を加えたことから,所期の目的に沿った研究を展開することができたものと評価している。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で研究はおおむね順調に推移していることから,研究計画に大幅な変更を加える必要はなく,引き続き,従来の関心に従って研究を継続する。さらに,研究を推進するために,研究関心を共有しうる研究者,および刑事司法手続の実態に通暁した法律実務家との意見交換を活発に行うことにより,すでに公表した成果に示された研究関心も含めて,課題に関する検討の深化を図る。
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