平成24年度においては,文献研究,および,学会報告に向けた共同研究やそのとりまとめの過程で実施した、他の研究者・法律実務家との議論・意見交換を踏まえた研究を行い,その成果の一部を論文として公表した。そのような研究として,とりわけ,被疑者,被告人が自らの犯罪事実を認める供述(自白)の証拠としての取扱いについて,重点的に検討を加えたものがある。 自白の,証拠としての許容性・使用可能性(証拠能力)については,刑事訴訟法上,自白が「任意にされたものでない疑のある」とき(任意性に疑いがあるとき)には否定されるとされているところ,解釈論上は,その獲得手法に違法がある場合にも,証拠能力が認められない場合があるとされている。もっとも,手続の違法性の意義や,任意性と違法性の関係などについては,理解が分かれている。また,証拠能力の否定される自白を機縁として得られた証拠(派生証拠)の証拠能力についても,必ずしも十分な検討が行われてこなかった。本年度において研究代表者は,前年度に実施した共同研究の成果に基づき,特に上記二つの点,すなわち,獲得手続の違法が自白の証拠能力に与える影響のいかん,および,証拠能力に欠ける自白の派生証拠の証拠能力について検討した結果を,論文の形で取りまとめ,公表した。自白は,きわめて証明力の高い証拠であるがゆえに,その取扱いについて従来多くの議論の蓄積があるところ,本成果はこれに新たな分析・検討を加えるものであって,それ自体理論面での意義が認められるうえ,自白はまさに被疑者・被告人が提供する証拠であることから,刑事司法制度における被疑者,被告人の地位を検討することを目的とする本研究課題との関係でも,その取扱いのあり方を明らかにすることには,重要な意義が認められる。
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