研究概要 |
本年度はイギリス法におけるコンスピラシー概念の動向を調査するための前提作業として、法律委員会の検討作業・改正提案(CP183, LC318)に大きな影響を与えたSaik事件貴族院判決(Rv.Saik, [2007] 1A.C.18)に焦点を当てて、これに関連する議論状況について、研究を行った。 Saik事件では、「他人の犯罪収益であるとの『疑念』を有しながら資金洗浄に合意した」との内容を基礎とする被告人の有罪答弁に基づく資金洗浄の共謀罪の成否が争われた。資金洗浄罪は、「財産の違法性」とその「認識」又は「疑念を抱くに足りる合理的理由」(1988年刑事司法法93C条2項)を、共謀罪は、既遂犯の「事実又は状況」に関する「意図又は認識」(1977年刑事法1条2項)をそれぞれ要件とするところ、貴族院は、(1)犯罪収益性に関する「疑念」を有する者に資金洗浄の共謀罪が成立するか、(2)資金洗浄罪の「疑念を抱くに足りる合理的理由」要件と「所定目的」要件とは整合するかという2点につき、(1)を否定し、(2)を肯定し、(i)「犯罪収益性」に関する「認識」が必要であり、(ii)この「認識」に「疑念」、は含まれないとの解釈を示したうえで、(iii)共謀罪の有罪判決を破棄した。 この検討作業を通じて、共謀罪の主観的要件に係る1977年法1条2項の立法趣旨、適用範囲、各文言の意義に関する議論状況、裁判例の動向、新たな問題状況をそれぞれ確認するとともに、資金洗浄という重要事案への「共謀罪による対応」という訴追手法に内在する諸課題の一端をも看取することができ、次年度のCP183およびLC318の本格的な調査・研究へとつながる基礎を形成することできた。
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