研究概要 |
本年度の活動は,(1)国内外の会社・金融に関する法学及び経済学・統計学上の文献の収集・咀嚼及び(2)研究の問題設定と視点の検証という,大きく2つの作業に充てられた。(1)の作業では,とりわけ来年度以降の準備作業として,(a)その全貌が漸く明らかになりつつある今般の金融危機についての研究を渉猟し,アメリカの企業組織再編と大きく関わりを持つその金融市場の構造についての,新しくかつ批判的な視点を全体として把握すること,(b)経済学及び統計学の方法論を修得しあるいは批判的に検討すべく主立った理論書や論文を読み進めることを,行った。他方,(2)の作業としては,(1)で法学・経済学双方から得られる知見を随時念頭に置きながら会社組織再編についての問題設定を再検証し,とりわけ投資家と市場をつなぐ制度としての法学の意義それ自体,及び具体的な法制度(法人,組合,委任)が市場において果たす役割についての,実験的な考察を行った。具体的には検証作業は,(a-1)東京大学商法研究会の報告及び討論を通じた具体的な判決の分析,(a-2)各分野の研究者との間での金融危機の分析や委任の法概念についての討論,(a-3)比較法を専門とする研究者との間での比較法的分析の方法論及び具体的作業のあり方の双方についてMilhaupt & Pistor, Law & Capitalism (2010)の批判的検討,さらには(a-4)法曹実務家との実務的な論点についての意見交換,という主に4つの作業に分けられる。他方,(b)(a)でなされた成果の一部として,委任と財団について検討を行った「壇信徒会に預金の帰属が認められた事例」,委任及び問屋の法構造を分析した「商品先物取引における委託取引の構造」を,公表した。
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