研究概要 |
本年度の研究は,前年度の基礎的な作業を元にし,かつ次年度においてヨリ精密な研究成果を得ることを目的として,常に現代的な諸問題との往復を意識しながらも,複数の次元に横たわる組織再編法制の問題をヨリ多面的に捉え,かつ,それぞれの基礎を精確に積み上げるという作業に充てられた。作業は具体的には,とりわけ法秩序全体の中で株式出資と債権者信用の関係を位置づけるべく,1.問題の多面的な設定と分析に向けられた理論的・方法論的な研究と,2.現代の諸事例に即した実証的な研究との,2つの作業に大きく分けることができる。すなわち,1(1)学会の1つの潮流をなしつつある統計・経済学理論の知見を検討・参照しつつ,1(2)委任・組合法理あるいはlouage(雇用・請負・賃貸借),さらには相続・資産・所有権を初めとする民法諸法理,及び,公法上の法人学説に関する文献を渉猟して,隣接諸法分野及び比較法的な見通しを得,さらに1(3)諸法理の積み上がりを精密に認識して基礎を固めるべく歴史的な検討作業を行い,以上の問題関心の下に比較法を専門とする研究者との間でPothierの著作集を集中的に検討した。他方で1の知見を現代的あるいは具体的な事例の中で検証すべく,2(1)東京大学商法研究会の報告及び討論を通じた具体的な判決の分析,2(2)会社分割(の債権者に対する詐害的な利用の問題)の総合的な検討,2(3)法曹実務家との間での投資事業組合に関する批判的検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は組織再編法制について,(1)現代的な諸問題を分析し扱うための法的・制度的な基礎を追究しつつ,他方で(2)それら諸問題と同時に有力となってきた統計・経済学を用いた方法論の意味を検討することにあったが,本年度までの研究において,これら(1)(2)が共に伝統的な基礎の積み上がりとの関係でいかなる位置づけにあるかを一定程度把握することが可能となったことから,順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの研究で,法的・制度的な基礎の所在と,方法論的な見通しを得ることには一定程度成功したと考えることができるが,他方でこれまで掲げてきた研究対象からさらに視野を広げる必要性も生じてきた。具体的には,第一に,比較法の対象としてこれまでは主としてアメリカを想定してきたが,ヨリ伝統的な基礎の下に,アメリカひいては日本法を分析するためには,フランス法及びドイツ法の検討を行う必要が生じてきた。同時に第二に問題の対象としてもこれまでは組織再編ないしは法人を主として掲げてきたが,前提とする私法諸制度それ自体の考察と結び付ける必要が生じてきた。次年度は,このような作業の必要性を認識しつつも,さしあたりは具体的な組織再編の問題と直接的に関係する箇所から対応することとしたい。
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