本年は、I各国金融機関規制の全体像を描くこと、II各種規制の影響を測定することを中心に研究を進めた。Iでは、金融機関に関するルールを、従前の金融規制・銀行規制の枠組みを超え、広く検討し、とりわけ会社法的観点で業法を整理しなおした。具体的には、銀行法・独禁法上の金融機関の株式保有規制がagency cost及びprivate benefitという会社法的観点を中心とするものであったこと、他方、現在の法制度の下においても、取締役の民事責任や会社法上の組織再編における法的介入という会社法の中心的領域においても法令遵守義務ないし民事保全法を用いた差止事由等の形で業法領域が多分に流入していることを指摘した。会計情報の開示という伝統的な銀行法の領域においても、金融機関の特殊性と会社法ルールとの連続性の両面から、現在の法状況を整理した。また、信販会社という金融機関に関する取引法的民事ルールを検討することで、伝統的な銀行等以外の金融機関における利用者と金融機関のリスク分配のあり方及び金融機関に期待される役割(後見的・公益的機能)が存在することを検討した。上記成果は主に日本法を端緒としているが、各国でも会社法をはじめ倒産法等他の民事ルールで金融機関の問題を扱っていることは共通していることが判明した。とりわけ、米国Stanford Law SchoolにおけるRock Corporate Governance Centerのセミナー参加を通じて、米国が一方で取締役の民事責任等において日本同様、金融機関の特殊考慮を引き受ける理論的素地があるにもかかわらず、他方、倒産法によって処理されたことから、処理類型として平時実体法か倒産法かという2つの類型を導出できた。他方、IIにおいてはStanford Law SchoolのMichael Klausner教授と研究打合せを行い、日本における具体的な取引関係を示すデータの必要性の指摘を受けた。
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