契約当事者間の法律関係を「請求権」の観点だけではなく「契約」の観点からもとらえ直す現在の状況において、「契約」概念は重要な役割を果たしている。契約締結後の当事者間の関係における「契約」概念については数多く論じられているが、契約締結前、すなわち契約締結過程の当事者間の関係においては、「契約」概念はほとんど意識されていない。 ドイツ法を基にした情報提供義務に関する研究を前提にして、契約締結過程における情報提供義務の内容を確定する際に、当事者が締結しようとしている「契約」がどのように関わるのかを明らかにし、それにより、契約締結過程における「契約」概念の役割を理論的に明確にするという目的を果たすため、本年度の研究では、ドイツ法において、契約締結過程において情報提供義務が重要な役割を果たしていることを確認したうえで、情報提供義務の内容確定の際に、当事者が締結しようとしている「契約」概念がどのような影響を与えているのかについて、裁判例、学説を調査・研究した。学説については、契約締結前であっても社会的接触があれば契約責任が生じることを明記した2001年債務法現代化に関する論文を中心に研究をし、裁判例については、契約締結過程の義務を考慮する際に重要な契約類型であるフランチャイズ契約を中心に調査・検討を行なった。検討の結果、フランチャイズ契約においては、契約締結過程での当事者間の義務内容の確定の際に、契約締結後に成立する「契約」の内容が考慮されうるという示唆を得た。
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