契約当事者間の法律関係を「請求権」の観点だけではなく「契約」の観点からもとらえ直す現在の状況において、「契約」概念は重要な役割を果たしている。契約締結後の当事者間の関係における「契約」概念については数多く論じられているが、契約締結前、すなわち契約締結過程の当事者間の関係においては、「契約」概念はほとんど意識されていない。 ドイツ法を基にした情報提供義務に関する研究を前提にして、契約締結過程における情報提供義務の内容を確定する際に、当事者が締結しようとしている「契約」がどのように関わるのかを明らかにし、それにより、契約締結過程における「契約」概念の役割を理論的に明確にするという目的を果たすため、本年度の研究では、平成23年4月22日に出された、契約締結過程における情報提供義務の法的性質を正面から判断した最高裁判決から得られた示唆に基づく研究を行ない、日本における現状を再確認した。平成23年判決では、情報提供義務のうち、その違反が不法行為責任となるものが明示された一方で、「その後に締結された契約に基づく」(契約目的達成に向けられた)情報提供義務と性質決定されると、たとえ契約締結前の義務違反であっても契約責任となることが示唆された。 この示唆に基づきさらに、契約締結過程の情報提供義務違反が契約責任となる場合として完全性利益の保護に向けられた場合があり、契約締結過程の情報提供義務は保護目的により三種類に分類できることを明らかにした。つまり、情報提供義務の有無・内容の画定だけではなく、義務違反の法的性質についても、未だ成立しておらず交渉によって成立させようとしている契約の性質が考慮されるといえる。
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