平成22年度においては、まず民法学者にとっては不案内である会社法の基礎を固め、次に、日本の現行法のもとで、中小企業の承継にあたってどのような点が問題であると感じられているかをまとめる作業を行った。本来当年度に行う予定であった、税法関係の論点についての整理は、遺憾ながら果たすことができなかった。 会社法の基礎固め作業として、具体的には、初学者向けに定評のある、大杉健一ほか『会社法』(有斐閣リーガルクエスト)を独習した。 現行法のもとでの問題点の整理作業の結果としては、次のような認識を得ることができた。すなわち、周知の通り、中小企業の承継にとって遺留分制度が最大の障害となっているが、このことは、経営者からその子らのうちの一人への事業承継が、その経営者の相続財産を現物のまま一人に集中させることを要請する点に鑑みれば、それと相反する均分相続や遺留分制度との衝突は必然的な帰結にすぎない。遺留分制度の趣旨は遺族の生活保障にあると言われるが、その機能だけならば、相応の財産さえ遺族の各メンバーに配分されていれば均分でなくても十分であるはずである。また、相続人間で相続分に差ができること自体への嫌悪が遺留分制度の根幹にあるのであれば、円滑な子への事業承継は断念されるべきであろう。要するに、現行の相続法と曖昧に折り合いをつけるが根本的な解決に至らないか、さもなくば、日本の相続法の基本理念を抜本的に取り替えるか、を選択することが、予め必要とされるように思われる。
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