平成24年度においては、これまでの作業をふまえつつ、フランスにおける中小企業承継問題について引き続き検討を加えるところから始めた。その結果、いくつかの知見が得られた。 まず、贈与分割(donation-partage)の活用である。フランスにおいても日本と同様、平等主義的な相続法(とりわけ遺留分制度)は、事業承継時における経営権の集中の要請の阻害要因となっている。そして、遺留分制度の実務上の大きなハードルは、遺留分の侵害があったかどうかの判断が相続開始時の財産価額を基準としてなされるということであり、したがって、経営者の引退時において相続人となるべき者たちの遺留分に十分に配慮した分配をおこなったとしても、そこから相続開始時までに長い時間が経過した場合には、財産評価額の変動の影響を受けて、事業承継した一人の相続人が他の相続人のために多額の金銭を用意しなければならなくなる、という事態が生じうる。これは事業承継者にとっては思わぬ負担となり、場合によってはフランスの贈与分割においては、一定の条件のもとで、分割時を基準時とする相続人間の平等に配慮すれば足りる(それ以降の価格変動はもはや考慮する必要がない)、とされており、承継後の経営の安定に資する、ということになっている。 このほかにも、そのためだけに設立した持株会社を挟んで企業承継を図る承継方法など、フランスにおける企業承継のための法的手法について検討を深めた。 反面で、フランス法の検討に時間がかかりすぎたため、イングランド法の検討には全く入れないまま最終年度が終わってしまったのが、大変に残念である。
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