本研究は、消費者の集団的利益の保護のあり方として、違法行為によって事業者が得た収益を剥奪する利益剥奪請求権を消費者団体に認める構想について、実体法上の基礎理論を探究しようというものである。研究計画の前半に当たる平成22年度においては、基礎理論的検討の切り口を獲得すべく、競争秩序と一般契約法の関係をめぐるドイツ法、EU法の研究の動向について研究を進めた。 具体的には、(1)EU不公正取引方法指令は、契約の有効性等の問題には立ち入らない旨の規定を置いているが、規制対象が契約締結過程そのものであることから、同指令が各国、あるいはヨーロッパ契約法において有する意義について研究が進展している。 また、(2)ドイツ法においても、憲法裁判所判決における自己決定権確保の要請を契機として、従来、ドイツ法に欠落していたとされる不当威圧の法理に相当する判例法理が、連邦労働裁判所において形成されつつある。ここにも、従来のドイツ不正競争防止法上の違法性判断基準と契約法の接合が観察される。これらの現象が、わが国における民法(債権法関係)改正の議論、施行10年を迎える消費者契約法の針路を考えるにあたって与える示唆につき、検討を進めた。その成果は、消費者契約法施行10年の成果と今後の方向性を問う、23年10月の私法学会シンポジウム報告に活かす予定である。 また、『ヨーロッパ消費者法・広告規制法の動向と日本』(龍谷大学社研叢書)にEUの競争法の動向の研究成果を踏まえた研究成果も公表に向けて作業が進行中である。
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