本研究は、消費者の集団的利益の保護のあり方として、違法行為によって事業者が得た収益を剥奪する利益剥奪請求権を消費者団体に認める構想について、実体法上の基礎理論の探究を目的としてきた。平成23年度は、(1)平成22年度に注力した<競争秩序と一般契約法の関係>という総論レベルのドイツ法、EU法の研究を踏まえ、わが国における民法(債権法)改正の議論や消費者契約法にもたらす示唆を探求した。具体的には、(1)競争法上の違法性判断を意思の瑕疵(不当威圧、経済的強迫)につないだり、不当条項規制を不公正競争規制という観点から捉えなおす議論等を参考にしながら、消費者契約法を市場法という観点から捉えなおす可能性を指摘し、(2)「労働者」保護と「消費者」保護を通底する基本原理としての「情報と交渉力の格差テーゼ」(消費者契約法1条)の存在意義を再認識する必要性を指摘し、特に、これまでは「交渉力」概念についての理論的検討が不十分であったのではないかとの問題提起をおこなった(13.研究発表の学会発表、およびその報告原稿である雑誌論文1、図書1がこれに関連する)。雑誌論文2・3および図書2は、この研究過程における副産物としての位置づけを有する。 他方で、各論である(2)団体訴権としての利益剥奪請求権の検討として、ドイツ不正競争防止法10条についての現地調査も実施した。現地調査では、運用レベルにおける数々の限界、問題点が明らかになった。また、平成24年10月限りで失効することになっていた投資家保護モデル訴訟手続法の改正論議についても検討を行った。
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