本研究は敵対的買収法制について、(1)日米でどのように異なるのか、(2)なぜ異なるのかを他の社会科学の成果も踏まえて明らかにした上で、(3)わが国における望ましい法制度のあり方を検討するものである。本年度は、(1)(a)昨年度分析したアメリカ法の研究を拡張して、デラウエアが取締役会中心モデルを採用してきた背景には、経営者の影響の強い議会の介入が常に控えてきたことを明らかにした。また、(1)(b)わが国については、既に分析していた判例、行政による提言に加えて、東証による自主規制も含めた包括的な分析を行った。その結果、少なくとも一定の場合には、経営者ではなく株主(総会)が防衛策の導入・発動を決めるという原則がとられているが、取締役会が決めるというモデルも部分的に残っていることが明らかになった。すなわち、具体的な事件によって明らかになった問題を解決するルール形成は進んでいるものの、防衛策をめぐる意思決定についての基本的なモデル(経営者と株主のいずれが意思決定をするのか)の選択が進んでいないという特徴を明らかにした。さらに、このことは、(2)わが国の買収法制が、複数の異なる主体(裁判所、行政、東証)が相互に影響を与えつつ、漸進的に形成されていること、および支配的な利益集団がいないというわが国の法ルールの形成過程によるものであることをデラウエアと比較しつつ、明らかにした。そして、(3)わが国の法ルールの形成過程をどのように評価するべきなのかの考慮要素も分析した。以上のように法の形成過程に社会科学的に踏み込んだ分析はわが国ではほとんど存在せず、理論的にも、また、法ルールをどのようにして作るのかという実践的な観点からも重要な意義を有する。 なお、法ルールの形成過程に関する分析をガバナンスに関する法改正や閉鎖会社における新株発行に関する判例の分析にも応用した。
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