近時、高齢者が成年被後見人などの専門家に財産管理をゆだねるケースが増加するにつれ、当該高齢者が死亡した後も、専門家が引き続き遺産を管理することは可能か、その法的根拠は何かが問題となっている。本年度は、葬式費用の支払い等、高齢者死亡後の各種事務を相続人が行う場合と、第三者である専門家が行う場合とに分け、1、わが国におけるその法的理論と問題の所在を分析し、2、わが国の相続法の母法である、フランスの遺産管理理論を明らかにしつつ、3、フランス2006年6月23日相続法改正における「死後に効力を生ずる委任」制度の資料を収集し、その概略をつかんだ。 その結果、死後の事務に関しては相続法との抵触が最大の問題であり、専門家による財産管理が委任契約による場合と法定後見の場合とを区別しつつ、相続法と抵触しない範囲であれば、第三者関与の可能性があるが、わが国ではその法的理論が十分でないことが明らかになった。上記1、については、拙稿「被後見人の死亡と死後の事務」松川正毅編『成年後見における死後の事務事例にみる問題点と対応策』(日本加除出版、2011)において、3、については、「フランス法における成年後見制度と死後事務」同『成年後見における死後の事務』において公表した。また、2、のうち、フランスの「相続財産の負担」概念については、相続法と抵触せずに葬式費用等を遺産から弁済する制度として、前述の拙稿「フランス法における成年後見制度と死後事務」で言及するとともに、平成23年3月19日に大阪家庭裁判所で開催された研究会において、口頭発表をした。
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