近時、高齢者が成年被後見人などの専門家に財産管理をゆだねるケースが増加している。そして、当該高齢者が死亡した後も、専門家が引き続き遺産を管理することは可能なのか、その法的根拠は何かが問題となっている。本年度は、(1)昨年度の研究成果である、拙稿「被後見人の死亡と死後の事務」松川正毅編『成年後見における死後の事務事例にみる問題点と対応策』(日本加除出版、2011)を、「相続財産に関する費用」(民法885条)に着目しながらさらに深め、また、(2)わが国の相続法の母法であるフランスの、遺産管理理論を明らかにしながら、(3)フランスにおける相続債務に関する判例分析もおこなった。 その結果、フランスには相続債務を清算して、遺産分割をおこなうしくみがあること、フランス法で「相続財産の負担」と呼ばれる種類の債務は、相続法と抵触せずに遺産から弁済できる債務であること、成年被後見人死亡後の財産管理に関する法的理論を検討するにあたっては、これらの理論が有用であろうことが明らかになった。(1)については、2011年7月に、(社)新潟県社会福祉会権利擁護センター「ぱあとなあ新潟」2011年度成年後見関係専門職合同研究会において、「後見活動における死後の事務」と題する基調講演をおこい、発表をした。(2)の一部は、拙稿「可分債権の相続と遺産管理」『判例にみるフランス民法の軌跡』(法律文化社、2012、公刊予定)が公表される予定で、既になされていた研究にこれを加えたものを、2011年10月、2011年度(第75回)日本私法学会において、「可分債権の相続と遺産管理」という題で報告した。また、(3)は、拙稿「可分債務の相続と清算」『判例にみるフランス民法の軌跡』(同)で公表される予定である。
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