本研究の目的は、「不当条項規制と事業者側のビジネスモデル設計・価格設定の自由との関係」を解明することにある。具体的には、契約中の免責条項、違約金条項、価格関連条項などの不当性を判断するに際し、条項無効化による価格への影響や商品・サービスの提供そのものへの影響が考慮されるか否かを、日本の議論状況や比較法を通じて検討するものである。本年は、この問題は、契約締結段階で、事業者がどのように契約条件の説明をしていたのか、契約条件の透明性が確保されていたのか等にもかかわることから、契約締結段階への規律に関する日本の議論状況を確認する作業を行い、その検討を公表した。また、いわゆる集団的消費者被害に関する共同研究において内容規制を担当したが、その際に、本研究の成果も活かしている。具体的には、適格消費者団体訴訟や集合訴訟制度を設計するにあたって、そもそも実体法上、不当条項規制がどのような守備範囲において、どのような利益を、いかなる要件の下で擁護しているのかを解明することが重要であり、本研究においては、価格や商品設計という中心部分とその他の契約条件とにどのような違いがあるのかに関して、ドイツにおける法と経済を参考とした約款規制論を参考としつつ、整理を行った。価格の設定や商品設計は、契約締結段階で誤った情報の提供や不当な影響力行使が行われない限り、自由競争に委ねられるのが原則であるが、いわゆる付随条件については構造的な競争の機能不全が発生するため独特の介入が必要となることを明らかにした。もっとも、価格そのものではないが、価格に関連する、いわゆる中間条項に対し、どのように法が介入すべきかという問題は残る。その例が世間でも話題となっている敷引や更新料に関する契約条件であるが、この契約条件は価格そのものではなく、不当条項規制アプローチを採ることが可能であることを示す試論の一部を公表した。
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