本年度の主要な成果は、典型契約としての性質に着目して組合契約を分析した論稿である。組合契約では、他の典型契約と異なり、初めから3人以上の当事者が想定されており、組合契約が締結されれば、各当事者間でそれぞれ債権関係が発生する。そして、組合員は、「共同の事業」のために、組合契約を利用している。この状況を、「目的」という視角からながめると、複数の債権関係が、「共同の事業」という目的により、単一の契約として結合されていると把握できる。また、組合契約も典型契約であるため、これに関する規律は、他の類似した無名契約における解釈指針として機能しうる。そうした認識から、この論稿では、債権関係を結合させる「共同の事業」を債権法的に分析するとともに、組合契約に関わる規律が、他の契約に及ぼしうる影響を考察した。その中で、「共同の事業」とは、組合契約での給付の共通利益性と、事業損益の分配によって基礎づけられているとの理解を示した。また、組合契約をめぐる議論には、組合契約だけでなく、三当事者以上の契約すべてに妥当しうるものが含まれることを明らかにした。これらから、典型契約として組合契約には、共同事業を目的とする契約のモデルとしての意義と、三当事者以上の契約のモデルとしての意義とが認められるとの結論を得た。さらに、組合契約の成立構造が未解明であることも分かり、それは三当事者以上の契約一般に妥当することから、三当事者以上の契約の一類型として組合契約の成立構造を理論的に分析する必要性も指摘した。 このほか、消費者裁判手続特例法の制定を受けて、集団的消費者利益の保護をめぐる私法上の問題について、論稿を脱稿した。これは、本研究課題と直接の関わりを持たないが、公益とはいえない私的な集団的利益の実現に関する研究であり、公益を目的とした行政契約に関する研究を架橋として、本研究課題とつながりをもつ研究成果である。
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