平成22年度においては、主に次の1~3の予備的分析と関連する資料の収集を行った。まず、1「分娩者=母という考え方の起源に関する研究」については、その考え方の歴史的な起源とその変動の過程を明らかにするために、1804年に制定されたフランス民法典での法的母子関係の発生に関する19世紀のフランスの学説・判例を検討した。 また、かつて日本の学説においてなされた議論(条件付当然発生説・当然発生説・認知必要説)の検討も進めた。次に、2「法律上の母子関係の決定とその制度に関する研究」については、フランスをはじめとする諸外国の母子関係制度およびその改革の経過に関する資料を収集し、検討を行った。特に2005年の法改正(オルドナンス第2005-759号)により非嫡出母子関係の成立に対しても条件付当然発生主義を採用したフランスの制度に注目した。 さらに、3「母子関係確定の法的基準の要素に関する研究」については、親性の本質とは何か、親性概念が何によってどのように規定されるかを考える際に考慮する必要があるgeneticist principleやgestationalist principleという考え方を哲学的観点から整理し、その問題点とそれをめぐる議論を深めることができた。これらの作業によって総合的な検討を行うことができ、本研究の目的である自然生殖における法的母子関係を決定する基準を明確にするための重要なステップとなった。
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