研究概要 |
平成22年度は,米国における近時の証券化市場規制の改革動向について検討した。 より具体的に,まず証券化プロセスについては,従来,原資産データの開示規制を除くと,特別な規制は課されておらず,おおよそ2008年3月米財務省・金融規制構造の現代化案,2009年6月米財務省・金融規制改革案で初めて提唱された後,同年7月投資者保護法案,同年11月金融安定化法案で具体化され,それらが2010年7月成立の金融規制改革法の一部に結実したので,本年度の研究では,これら近時の規制改革(案)を主たる検討対象とした。規制の中心は,証券化業者に対し,原資産に関する一定の信用リスクを保持するよう義務づけることで,原資産のリスク評価のインセンティブを与えようとするものである。 他方,信用格付機関規制については,1975年にNRSRO制度が導入された後,2006年格付機関改革法で規制内容が大きく変容したのを経て,さらに2008年3月米財務省・金融規制構造の現代化案を受けて同年6月・7月にSEC規則改正案が提案された。これらは一貫して,情報開示規制・利益相反規制の強化を図る方向性を有していたのに対し,その後,2009年6月米財務省・金融規制改革案では,行政機関(SEC)による監督の大幅な強化をも志向して,全ての格付機関にNRSROとしての登録を義務づけることも企図された。しかし,2010年7月成立の金融規制改革法では,結局NRSROとしての登録は義務づけられず,行政監督の方向性が若干弱められているので,本年度の研究では,これら規制改革の動向の背景事情を明らかにするとともに,米国の動向の妥当性を明らかにする観点から,米国の影響を非常に強く受けながらも独自の証券法制を有しているカナダに出張して,同国の研究者との意見交換も行った。
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