研究概要 |
本年度の研究成果としては、第一に、法的起源説についてさらに検討を深めた点である。具体的には、Djankov, Simeon, Rafael La Porta, Florencio Lopez-de-silanes, and Andrei Shleifer "The Law and Economics of Self-Dealing" Journal of Financial Economics 88 (2008), pp.430-465.およびRafael La Porta, Florencio Lopez-de-Silanes, Andrei Shleifer "The Economic Consequences of Legal Origins" Journal of Economic Literature, Vol.46, No.2 (2008), pp.285-332.とその関連論文について検討を加えた。それにより、法的起源説の論者が投資家保護水準の測定基準として新たに提唱したself-dealing-indexおよびrevised-anti-director rightsを自らの研究との関係でどう評価するかという課題が新たに生じ、また、これらの指標を用いて各国の法制度の歴史的展開を点数付けて評価することの意義について確認する必要性が生じた。そこで、これらの点について議論するために、ロンドン・ビジネス・スクールに出張し、Julian Franks氏と議論を行った。 第二に、昨年に引き続き、日本における所有構造と企業法制の展開について研究作業を行った。戦前については法制度改正の契機となった具体的な事件に焦点を当てて法制度の変化とその背景について調査を行った。また、戦後については旬刊商事法務のデータベースを利用し、それぞれの時代において所有構造の変化に直接した際に、法学者およびその他の者がどのような問題意識の下に法制度改革を論じているかに注目して、文献資料の読み込みを行った。さらに、法的起源説との関連で、欧州と米国では所有構造の相違によりコーポレート・ガバナンスに要求される法制度が大きく異なるという、近時における議論も参照した。これにより、世界的に見て特異な歴史的経緯を経て今日に至っているわが国の所有構造と法制度との関係を論じ、コーポレート・ガバナンスの分野で新たな問題提起を行いたいと考えている。
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