研究課題/領域番号 |
22730089
|
研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
坂口 甲 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (20508402)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 受領遅滞 / 債権者の協力義務 / ドイツ法 / 学説彙纂 / 請負契約における危険負担 |
研究概要 |
1.具体的内容 2012年度は、学説彙纂19巻2章の翻訳を継続したほか、同巻同章における建築請負のadprobatioについて、その意味と機能を分析した。その結果、adprobatioは、請負人が仕事の品質を注文者に証明し(probare)、注文者がこれを承認する(probare)一連の手続であると考えられる。ただし、adprobatioの内容は、注文条項で柔軟に合意することができた点に留意する必要がある。そして、不可抗力によらない危険(たとえば、仕事の瑕疵による建築物の滅失・損傷)は請負人が負担しなければならないところ、adprobatioによってこの危険が注文者へ移転する。これに対して、不可抗力による滅失・損傷の危険は、adprobatioにかかわりなく、注文者が負担する。 民法536条2項における債権者の責めに帰すべき事由の意味についても、ドイツ上の議論を手掛かりとして、いかなる法的枠組のもとで帰責事由の存否を判断するのかについて分析を進めた。 2.意義と重要性 現行法上、請負契約における対価危険は、請負人が負担するものとされ、その悉無律的解決が批判されている。これに対して、建築請負に関する学説彙纂の法文を見る限りは、不可抗力によらない危険と不可抗力による危険とが区別され、前者ではadprobatioによって請負人から注文者へ危険が移転し、後者ではそもそも注文者が危険を負担する。古典期ローマ法から現代にまで至る議論の変遷を明らかにすることは容易ではないものの、以上の研究結果は、現行法を理解するための議論の出発点として重要な意義を有すると考えられる。また、民法536条2項の研究については、債権者の帰責事由の意味が債権法改正に向けた一連の議論でも未解明の点として注目されており、研究の重要性が高まっていると言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1に、民法536条2項における債権者の帰責事由の意味については、同条同項に相応するドイツ民法326条2項における債権者の帰責事由の意味をめぐるドイツ法上の議論の分析に加えて、債権者の帰責事由の判断枠組の分析にまで立ち入ることができた。 第2に、古典期ローマ法における建築請負の危険負担については、adprobatioの意味と機能に焦点を当てつつ、学説彙纂の法文それ自体と先行研究の分析を進めることができた。 第3に、学説彙纂19巻2章の翻訳については、その全部について仮訳を作成することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
第1に、民法536条2項における債権者の帰責事由の研究については、すでに平成24年度に方向転換を始めたところではあるが、その意味をめぐる議論だけではなく、帰責事由の判断枠組をめぐる議論にも視野を広げて研究を推進する。 第2に、古典期ローマにおける建築請負の危険負担に関する研究については、不可抗力によらない危険の典型例として出てくる「仕事の瑕疵」がいかなる内実を有しているのかに焦点を当てて研究を推進する。 第3に、学説彙纂19巻2章の翻訳については、翻訳の公表に向けて、仮訳の見直し作業を進める。
|