本研究では、企業活動の際に生じるリスクについて、取締役がどのような役割を果たし、どこまで法的な責任を負うべきかということを明らかにした。 まず第一に、企業活動におけるリスクマネジメントの観点から、取締役会の役割を明らかにした上で、企業に生じるリスクについて、法的リスクとそれ以外のビジネスリスクに大別して、取締役がどのような法的責任を負うのかということを検討した。取締役がいずれのリスクについてもリスクマネジメントの一環として、内部統制システム構築義務を負うべきであると考えた。そして、それは法的リスクに対応するための法令遵守体制構築義務だけではなく、より広いリスク管理体制構築義務をも包含するものとして位置づけられる。しかしながら、取締役の内部統制システム構築義務違反に基づく法的責任については、米国法を比較検討した結果、法令遵守体制構築義務よりもそれ以外のリスク管理体制構築義務については、より広範な裁量が取締役に認められることを明らかにした。 第二に、上記第一の点は、あくまで事前のリスクマネジメントの問題として考えることができるが、他方で、事後のリスクマネジメント、すなわちリスクが実際に具体化した際、取締役はどのような措置を執るべきであるか、ということも検討した。この点、米国法との比較検討により、上述のように内部統制システムの構築については広範な裁量が認められる一方、実際に、リスクが顕在化したような場合には、取締役は迅速かつ適切な対応をとるべき義務が生じ、それについて適切な対応をしなかった場合には、厳格な責任が問われるべきであるということがわかった。つまり、事前のリスクマネジメントの一環としての内部統制システムの構築については広範な裁量が認められる一方、事後のリスクマネジメントともいうべきリスク対処義務については厳格な責任が取締役に課されているということを明らかにした。
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