本年度は物権債権峻別論について、(1)歴史的な視点と、(2)現代的な問題関心から考察を行った。(1)との関係では、権利の体系は必然的に狭い物概念を導き、物権債権峻別に到達するのか、反対に、物概念の制限-このことが物の上の権利に影響を及ぼすのは当然であるとしても-、そのことと物権と債権の区別の間にはなにか繋がりがあるのか、という問いをたて、かつて研究したアーペルの理論をあらためて分析する一方、サヴィニーの峻別論につき新たな動向もフォローしつつ、この問いとの関連において読み直しを試みた。両者には論理性という共通点はみられるものの、教育目的・簡潔明瞭性に規定され、2つの問題に内的な連関を示さないアーペルと、自由の共存のための法、権利と意思の結合による無体物=権利の排斥という論理に支えられ、両問題に強固な内的連関を提供するサヴィニーを対比させた。コンテクストとして、人文主義的体系と歴史法学的体系の相異、抽象的所有権概念の確立・物権の性質の画定の問題、商品交換・取引安全との関連を指摘した。合わせて、峻別の成立には「財産」概念の排斥過程の考察が不可欠であるところ、この問題に決定的な影響を与えたハッセ、ミューレンブルッフ、ヴェヒターの理論を取り上げ、分析し、それらの背後にある基本的な思考-抽象類型的な規律よりも個別具体的な規律のほうが望ましい-を括りだした。(2)については、ポイケルトにより近時公刊された大部な研究に着目し、これを分析するとともに実際に当人を呼び、質疑を行った。とくに注目されるのは、「所有権」と「自由」を対置している点(権利論との関係)、古典的・自然的自由を基礎に据えている点(秩序論との関係)、物所有権・精神的所有権が成立している財と、その他の財の間に線を引いている点(財の区分との関係)である。そのほかにも、物概念論、帰属・対象論、債権所有論、財の集合論などの考察を行った。
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